ぶた猫ぶーにゃんの社会的マイノリティ研究所

私、ぶた猫ぶーにゃんの「社会的マイノリティ」について考えるブログです。主に社会的マイノリティ、そして彼ら彼女らを侮辱する「毒オトナ」について綴っています。

就職氷河期戦線異状あり⑥あの時、「フリーター」にならざるを得ない人が確かにいた。「フリーター漂流」(旬報社)の感想も交えて

おはようございます。Buenos Dias!!

昨日、恋人とともに電車旅行してました。

その電車の中で「フリーター漂流」(旬報社)を読み終えたので、今回はその感想を綴る。

就職氷河期戦線異状あり⑥あのころ、「フリーター」にならざるを得ない人が確かにいた。「フリーター漂流」(旬報社)の感想も交えて

「2000年代就職氷河期」が、「雇用慣行の大激変期」でもあったことは当シリーズ連載で綴っている通りだが、その中で一番「激変」したのは「フリーター」という言葉の意味付けであろう。

「フリーター」という言葉が生まれたのは1987年。
リクルート社の求人情報誌で使用されたことから始まる。*1
このころは、言うまでもないがバブル経済絶頂期であり、比較的容易に正規雇用にありつける時代だった。
そんな時代感覚に「反逆」するかのように、「自己実現」あるいは「夢を、夢で終わらせない」ためにあえて「フリーター=非正規雇用」に身を投じることを半ば「称賛する」意味合いで使用されていた。
その「夢」とは、音楽や演劇などの芸能界デビューや、海外留学の資金貯蓄が多かった。

そしてバブル崩壊後の1990年代から「失われた20年」に突入するわけだが、ここから「フリーター」の意味付けが大きく変わった。

  • 正規雇用(正社員)になれず、仕方なく非正規雇用に甘んじている者が多くなった。
  • 「夢を、夢で終わらせない」タイプのフリーターももちろんいるが、「自分の限界に挑戦する」「新しい自分を発見する」のではなく、「貧困状態にあえいでいる状態から逆転したい」という状況に変質している。
  • 最初の項とも重なるが、企業側もまた「雇用の調整弁」として、「フリーター」という存在を最大限に活用し始めた。正規雇用を削り、非正規雇用契約や労働者派遣などの外部調達(アウトソーシング)にすることできめ細かい顧客の要求に応えられる体制を作ったのだ。

2000年代中盤、そんな「意味付けが変化したフリーター」のことを紹介するNHKスペシャルの番組が相次いで制作された。
今回紹介する「フリーター漂流」は表題のNHKスペシャルの番組はじめ、その前後に制作されたフリーター関連の番組をまとめた書籍である。

まずは例の番組のダイジェストから

本書序盤では、「フリーター漂流」当該番組のダイジェストと、取材対象者のその後を追ったところから始まる。

当該番組には3組の労働者にスポットが当てられた。
ヤマハタ=サン」、「イマイ=サン*2」そして「ハシカケ=サン」である。

このうち、「ヤマハタ=サン」のケースでは、なかば「憎悪ポルノ」として作用してしまっていたように思う。
工場の同僚とうまくいかず、激高した挙句首になった人。
「請負会社」担当者が「寮」で「ヤマハタ=サン」を諭すときに、当の「ヤマハタ=サン」がエラそうにたばこを燻らせていたことを覚えている人は多いと思う。

「あれが人の話を聞く態度か」

この部分から、当時の番組評では「やっぱりフリーターは『人間』がなっていない」という内容が多かった。

むろん、当該番組で伝えようとしたことは「フリーター当人の『人間性』」に帰結するだけで済むような問題ではないのだが…

その後、「ヤマハタ=サン」が友達の家に転がり込んで「ロマンシングサ・ガ3」をやっていたシーンがあったが、実は以前に*3歓楽街の「ホストクラブ」で働いていたことが本書に綴られている。
これは当該番組では取り上げられていなかったことである。

また、「ヤマハタ=サン」とは逆に、不器用なキャラで「感動ポルノ」的な取り上げられ方をした「ハシカケ=サン」であるが、この方にも「その後」が綴られている。
この辺はぜひ、本書を読んでほしい所である。*4

「雇用の調整弁」の代表「請負会社」

当該番組で紹介された「工場労働者」は、実は当該工場の従業員ではない。
本シリーズ連載でも取り上げた「業務請負会社」から送り込まれた「外部労働者」である。

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当該番組取材当時、「労働者派遣法制」は「ネガティブリスト方式」に改められて原則自由化していたものの、「工場労働」については一部例外として禁止の対象になっていた。
そこで工場労働において採用された「手口」が、「請負会社」が「製造ラインの一部」を借り受けて「下請け業務をおこなう」という名目をとることだった。
のちに偽装請負として問題となる「手口」である。

その後、「工場における偽装請負」を半ば追認する形で、工場労働においても「労働者派遣」が認められるようになったことは本書でも綴られている。

偽装請負」だったり「労働者派遣」だったり、この時期はとにかく「労働者の外部調達」がトレンドになっていた。
「日雇派遣」「オンコールワーカー」という言葉も生まれた。

当該番組および本書でも「労働者の外部調達」が「いいよう」に使われていることが紹介されている。

このころは当時主力商品だった「携帯電話」をはじめ、2~3ヶ月ごとにフルモデルチェンジがおこなわれることが日常茶飯事だった。

当該番組でもあったと思うが、モデルチェンジのたびに労働者たちは敷地内を頻繁に移動させられていた。
「請負会社」の担当者もこの状況に「唖然」としていたところが印象深かった。

ちなみに、本書では取り上げられていないが、当該番組において当該「請負会社」の取締役が、

「一人でも多く”タマ”を送りたい」

と発言していたことも触れておこう。

「フリーター」はわが国の雇用状況への絶望の象徴

本書中盤以降は、また別の番組内容も交え、「フリーターでも構わない」と吐き捨てる高校生たち、そして20代後半~30代*5の「フリーター」について綴られている。

高校生のエピソードについては、私もその番組を視聴していたのでよく覚えている。
東京都足立区のある高校を取材した時の話が綴られている。

 取材の初日、フリーターになるという3年生の話を聞いてみた。
「フリーター最高ですよね。昼まで寝て、夕方からバイトに行って、友達感覚で楽しく働いて、それでバイトが終わったら、友達を呼んで朝まで遊ぶつもりです。金がほしいときにバイトして、遊びたいときには休む。とりあえずいまが楽しいことがいちばん大事ですね」
「多分、就職はしないと思う。だって学校の求人票にいいのがないんだもん。やりたくない就職先ばっかりで、見ているだけで嫌になっちゃう。でも遊ぶお金はほしいからバイトはすると思うけど、あーずっと高校生のままでいたいな」
(P99-100)

…明らかに世の中をナメている、とぱっと見では思うかもしれない。
実際、本書でもこの直後にこう綴られている。

 フリーター志望の生徒たちの答えには共感できなかった。
 何よりも自分のやりたいことを最優先させていて、まじめに進学や就職をすることを軽視しているようだったからだ。
(P100)

しかし、高校生たちがこんな認識にならざるを得ない背景が、さらにその直後に綴られている。

 しかし、取材を重ねていくと、生徒たちがフリーターになるもうひとつの理由も見えてきた。
 学校に来る求人の数が大幅に減少していたのだ。
(中略)
 また全国に拠点を構える外食チェーン店が提示していた条件はどう見てもアルバイトと同じだった。ボーナスも交通費も支給されないうえ、給料も時給計算になっていた。
(P101-102)

新卒向けの求人そのものが激減しているうえに、その求人も「派遣」だったり、アルバイトに毛が生えた程度の業務内容だったりしていた、と綴られているのだった。

また、当時のわが国の雇用をめぐるニュースでは、(本シリーズ連載でも綴っているように)「リストラ」「従業員削減」「希望退職者を大規模募集」などが踊っていた。

こんな状況で、やれ「正社員になれ」と説教しても、「正社員というものが本当に大事なんですか?」と反論されても文句は言えないと思う。

希望を失った「フリーター」は、「犯罪」に片足を突っ込む

本書終盤では、20代~30代のフリーターたちが登場する。

その中で、「舞台俳優を目指す20代女性」「何もかも失った30代の男性」のケースでは、「犯罪」に片足を突っ込んだエピソードが綴られている。

 新宿の雑居ビルの一室の出勤すると、名前と電話番号が書いてある分厚いリストを渡された。そして、そこに、郵便局員のふりをして電話をしろと命じられた。
(中略)
 この頃ちょうど「オレオレ詐欺」が広がり始めていた。
「何か変だな」と思ったヤマオカ=サンはすぐにこのアルバイトを辞めた。
(P141-142、個人名は一部改変)

 

 金が必要だったアラマキ=サンは、26歳のとき、怪しげなアルバイトに手を出した。時給1500円のカジノバーでの仕事だった。場所は都内のマンションの一室。
(P172-173、個人名は一部改変)

よく、「高収入バイト」を謳うサイトや雑誌がある。
それはたいてい「セックスワーク」か、「犯罪の片棒担ぎ」のどちらかと相場は決まっている。

しかし、希望を失った「フリーター」たちはこういう「バイト」にも躊躇なく手を出す。
カタギの世界だってろくなものではないのだから、多少道を踏み外したって構うものか。*6

もちろん、起業も甘くない世界だ

そして本書の最後では、「起業」に挑戦した人のケースが綴られている。
しかし、これもまた過酷さが綴られている。
小学生からコンピューターを得意としていたその人は、当時の「ITバブル」の勢いに乗り「インターネット接続業」を始めようとする。

厳しく「駄目出し」を指摘する周囲に対し、「絶対成功する」と豪語して融資を取り付けるものの、いざ事業を開始すると見通しの甘さが露呈してしまい皮肉にも「駄目出し」していた人たちの言ったとおりになってしまう。

結局企業は倒産し、現在はコンサルタント業をしているとのことだ。

前回の記事で、「雇ってもらえないなら起業してみろ」と言われる時代だったと綴ったが、失敗した時はどう救済(ソフトランディング)してくれるのか、そこらへんの支援については何も言わなかったんだよなあ。

sgtyamabuunyan2nd.hatenadiary.jp

 

最後に

かなり長くなってしまったが、「2000年代就職氷河期」は、「フリーターにならざるを得ない」人たちを大量発生させたように思う。
そして「フリーター」を半ば「傭兵」の形で雇い、「労働力のジャスト・イン・タイム化」を推し進めるシステムが構築されていった。
「労働者派遣」「日雇」などなど…

そんな時期があったことを考えると、現在の「人手不足」「売り手市場」という報道を見聞きしていて「何を言うてまんのや」とつぶやいてしまう。

とにかく、当時の「非正規雇用労働者」のありようを見つめるにはいい本だと思う。

次回に続きます。
本シリーズ連載はあと3回くらいを予定しております。

*1:略する前の「フリーアルバイタ―」という言葉はそれ以前からあったようだ。詳しくは フリーター - Wikipedia を参照。

*2:当該番組では別の名前が使われていた。

*3:つまり工場をやめてから友達の家に転がり込むまでの間。

*4:残念ながら、「イマイ=サン」については後日談は無い。

*5:いうまでもないかもしれないが、2006年ごろ当時、である。

*6:むろん、引用した人のケースでは本人が積極的に手を出したわけではない。しかし、明日食うものにも事欠く状況で、「高収入」を謳う「バイト」があれば藁にも縋る思いで飛びつくことは想像に難くないと思う。